キースについて屋敷の中庭に出た。会場の中とは打って変わって人はひとりもいない。屋敷の中からパーティーのざわめきがかすかに聞こえてくるだけで、とても静かだ。
「いやぁ、久しぶりだなリック。5年ぶりか。さすがにでかくなったな」
さっき会場で招待客の女性方やクレアに見せていた恭しい態度はどこへやら、くだけた調子でキースは話し始めた。
「お前な、こんなに堂々と現れやがって、何のつもりだ!だいたいなんだその格好」
「あ、これ?イカしてるだろ。今日のために作ったんだぜ。義賊ならぬ、貴族のキースってな」
「あほか!」
あれから5年たったというのにキースは相変わらずのようだ。口を開けば軽い口ばかりたたく。
「だって前会ったときに言ったろ?『5年後くらいにまた来る』ってよ」
「本当に来るなんて思ってねぇよ!どっちにしたってわざわざ俺の誕生日に来なくなっていいだろ」
「うっわひでぇ。わざわざ調べてこの日に来たってのによ。…ん?そういやお前、前は自分のこと“僕”って言ってなかったっけか?言葉遣いもちょっと変わったし、大人になったなー」
「うるさいな、細かいこといちいちつっこむなよ、コソ泥が」
「コソ泥って…。かっこいい響きじゃねぇなぁ…」
「だからいちいち…。はぁ、もういいよ」
キースの相手をするのは疲れる。ひとつひとつのことに反応してたら日が暮れてしまう。
「うわ、なんだよその反応。気持ち悪いな!」
「うるさい黙れ」
「………」
「…なんとか言えよ」
「どっちだよ!?」
キースと話していると自分のペースをことごとく崩される気がする。俺も大人になったんだから、少しはこいつとまともに話ができるかと思ったのだが。5年前と何も変わっていない。
「それにしてもよ、お前もついに女と付き合うような年になったんだな。可愛いコじゃんか、クレアちゃん」
「な、別に付き合ってなんかない。クレアはそういうのじゃ」
「またまたとぼけちゃってよ。まぁいいや。そんな素直になれないリック君にひとつ情報をやろう」
「情報?」
聞き返すと何か悪だくみでもするように、キースはにやりといやらしく笑った。
「さっきクレアちゃんと話してたけど、彼女の様子おかしくなかったか?」
そう言われて思い出す。たしかにさっきのクレアは明らかに様子がおかしかった。誰かを探しているかのような…。
「あれな、あるものを探してたんだよ」
「もの?」
なんだ、人じゃなかったのか。だが人ではなくもの?あんな人であふれた場所で一体何を探すというのか。
「ネックレスだよ。彼女がいつもしてるやつ、あるだろ?」
キースの言うとおりだった。クレアは幼い頃に母親からもらったネックレスを大事にしていて、いつも身につけている。今日も身につけていたはずだ。落としたのか?さっき一緒に
キースと話したときにはまだつけていたと思うが…。
そこまで考えて俺はある考えにたどり着いた。
「まさかお前…」
「あ、わかっちゃった?察しがいいねぇ」
「馬鹿がっ!!さっさと出せ」
「はいはい」
キースは上着のポケットからハンカチに包まれたものを取り出した。そっと開くとネックレスが顔を出す。間違いなくクレアのものだ。
「お前、なんてことをっ!!」
「実は俺、スリの技術も結構自信あったりして」
「どうでもいいからさっさと寄越せ!」
「そう怒るなって。最初から盗むつもりなんてないんだからよ、ほら」
ハンカチごとネックレスを受け取る。見る限り破損はどこにもないようだ。よかった。
「盗むつもりないって、思いっきり盗んでるじゃないか!」
「わっかんないかな。恋愛に奥手なお前のためにきっかけ作ってやったんだよ。頼りになるとこ見せてやれよ、クレアに」
「だから違うって」
「なんだよ自覚なしか?見てりゃわかるぜお前の気持ちくらい。ま、あれだな。5年ぶりに会ったけど、お前イイカンジに成長したんじゃねぇの?立派になったよ」
「うるさいな、お前に言われても嬉しくない。5年たっても何も変わらないくせに」
「…お前それを言うなよ」
そう言ってキースは苦笑した。5年たっても何も変わらないこいつに『立派になった』と言われたことが少しだけ嬉しかったのは、きっと気のせいだろう。
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