義賊の男、キースは白地に金の刺繍を施した服に身を包み、会場に来ていた女性に囲まれていた。会話がこちらまで聞こえてくる。
「あまりお見かけしない方ですけれど、どちらからいらしたの?」
「実は最近こちらの国に移住してきたのですよ。以前少し縁のあったリック君が誕生日だというので、今日はこちらへ」
「まぁそうなんですの。そうですよね、貴方みたいに素敵な殿方でしたら国内にいれば噂がすぐに届くはずですもの。知らなくて当然だわ」
「それはこちらも同じですよ。貴女のように美しい女性を今まで知らずに生きてきたなんて、もっとはやくこちらに移住してくるべきだったと後悔しているところです」
「まぁ、お上手ですわね」
「本心ですよ」
キースの周りにはどんどん女性が集まってきている。
「なんか、すごくキレイな人ね。知り合いみたいだけど、そうなの?」
「ん、あぁ。まぁな」
一瞬見間違いかとも思ったが、やつは間違いなくキースだ。あれから5年たっているから20代後半のはずだが、全然外見が変わっていない気がする。
しかしなんで、こいつがこんな堂々とパーティー会場にいるんだ。仮にも盗人、お尋ね者だ。そんなやつがなんでここに。
「あぁ、リックじゃないか」
そうこう考えているとキースがこちらに気づき、声をかけてきた。名残惜しそうな女性たちを笑顔でかわしながらこちらへ近づいてくる。
「やぁリック、久しぶりだね。誕生日おめでとう」
「…あ、ありがとうございます」
あまりに堂々と話しかけてくるので、こちらもどう対応していいのかわからず、ただ言われたことに返すことしかできない。
「しばらく会わないうちにすっかり大人になったね。今年で成人だものな。お父上もさぞやお喜びだろう」
「え、ええ。まぁ…」
「おや、こちらの可愛らしいお嬢さんは?リックのお友達かな?」
キースはクレアの方に向き直って恭しくお辞儀をしてみせた。
「はじめまして、可愛らしいお嬢さん。私はキース。キース・メルクリア。年は離れていますが、リックの友人です。どうぞキースとお呼びください」
「こちらこそはじめまして、私はクレア。お会いできて光栄ですわ」
こいつ、堂々と名前を名乗りやがった。もちろん偽名だろうが、いくらなんでも世間に轟く義賊の名をそのまま隠しもせず名乗るとは…。
「いやぁ、それにしても美しいお嬢さんだ。この金の髪、ふわふわとしてとても可愛らしい」
そう言ってキースはクレアの髪に触れた。クレアも驚いたようで、何も言えずにいる。
「おい、気安く触るな!」
思わず声を荒げてしまったが、そんなことには少しも臆せずキースはそのままクレアの肩に手を置いた。
「おいおいリック、そんなに怒ることないじゃないか。ねぇ、クレア?」
「え?あ、あの…」
「ん?それともあれかな。クレアは君の恋人かい?それなら悪いことをしたな、許してくれ。クレアも、悪かったね」
「い、いえ」
「キース、お前一体何しに」
「おっと。それじゃ挨拶も済ませたことだし、私はせっかくだから他の方にも挨拶をしてこようかな。リック、今日はおめでとう」
キースはそう言ってすたすたと去っていく。なんなんだ、今のは。だいたい、クレアは恋人なんかじゃ…。
「なんだか、不思議な人ね」
「え、あぁ。そうだな」
クレアの言葉で現実に引き戻される。とりあえず、あいつがあれだけ堂々としているうちは、逆に安全な気がする。しばらくは様子を見るか…。
「ねぇリック。私一回お母様のところへ戻るわ。また後で会いに来るわね」
「ん、そうか。わかった、また後でな」
「ええ、また後で」
キースに続いてクレアもドレスを翻して会場の人の中へとまぎれていった。
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