無。有。無。
そこは生と死の織り成す場。
「ここは――」
閉じていた瞳を開ける。
「魂を洗浄する場だ」
横に立つトウゴは少し震え、それでも目はしっかりと開けていた。
「行くぞ」
無色とも漆黒とも定めることのできない道が永遠に続いている。
私はトウゴの手をつかみ、意識を集中させる。
この道の向こうにある、『あの場所』――
透明な命の輝きを閉じ込めた無数の滴の粒達が溢れる場所。
そこでだけ人は全ての穢れを落とすことができる。
ただし、それにはあるリスクが伴われる。
魂の力が弱ければ、逆に滴に飲み込まれ、二度と元の世界には戻れない。
「いいか、トウゴ。意思の力が強ければ、必ず戻れる。最後に一つだけ教えてやろう。
お前はこのまま生きていけば、未だ誰も開発したことのないHIVの治療薬を作り出す可能性のある存在なんだ」
トウゴはくすり、と笑って言った。
「じゃあ、僕も教えてあげる。
他の誰が何と言おうと、僕にとって君は天使だったよ」
隣を見ればそこには不敵に笑うトウゴの姿があった。
その姿は自信に満ち溢れていて、トウゴ自身無数の輝きに守られているように見えた。
「トウゴなら大丈夫だよ」
にっこり笑う。ひさしぶりに、生きるのも良いことだと思わせてくれた人だから。
「初めて名前で呼んでくれた」
「へ?」
「君、ほんとは女の子でしょ。何かの理由でそういう態度、とってたんでしょ?」
――トウゴは、どうして何でも見透かしてしまうのだろう。
そうだ。
初めから、トウゴは先入観とか抜きで私を見てくれたんだ。
「名前、教えてよ」
「……ナンバー9」
「ナンバーナイン?」
「そう、呼ばれてる。でも、ほんとの名前は明陽」
「あきひ……また、会えるかな」
「まさか」
顔を見合わせて笑う。
これで最後かもしれないのに、晴れやかな心。
「じゃあ、ほんとのさよなら。バイバイ、トウゴ」
「またね、あきひ」
トウゴは表情を変えずに、その言葉を口にした。
(また、会いたいけど)
「トウゴ、もう会えな…」
「だって、人生には何が起こるかわからないんだよ?
こんな風に僕は生きることができるようになったりするし、あきひに会えたりしたし、ね?」
そうして光に包まれた。
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