「僕、HIVなんだ」
突然トウゴは口を開き、話し出した。
「知ってる?僕の場合は輸血感染なんだって。
今はまだ症状がおさまってるからいいけど、一旦現れ始めると死んだ方がマシなほど苦しくなるんだって」
他人事のように話すトウゴ。
「――だからお前は死のうとするのか?」
「さっきのは君が僕を殺すんだと思ったからだよ」
「いつもの、の話だよ」
自殺未遂:4回。あのスクリーン―トウゴの笑顔の下にはそう記されていた。
こんな笑顔が作れる人にも自殺なんてものができるんだ。
私がトウゴの仕事を渡された時、まず思ったのはそのことだった。
「……じゃあ、君は僕に何をさせたいの?」
「お前は死なせない」
「そんなの、不可能だよ!死なせない、なんて……僕は知ってる。
お母さんも、お父さんも、お医者さんも、みんないつ僕が死ぬかばっかり気にしてる。そんなの……」
「そんなの?」
「……」
知ってる。その気持ち。
膨れ上がり過ぎた、カナシイの気持ち。
「私は、お前を――クシマトウゴを生かすためにここへ来た」
「生かす?」
「信じられないか?」
「どうやって?いや、それよりも何故?」
「そういう世界があるんだ――」
私はひとっ飛びで窓の桟、トウゴの隣へと降り立った。
翼などないけれど、この姿ならどこへでも行ける。
「この世界が上手くやっていけるように調整するための世界があるんだ。
人間は過ちを犯す、それは仕方がない。人間は過ちを犯さないとしに価値を知ることができないんだ。
だけど、世界にマイナスな死は起こしてはいけない。お前はそれを防ぐ人間になりうる存在なんだ」
「死を―防げる人?」
「ああ。そういう存在をこの世界から消さないようにする者のことをこちらの世界では“死神”と呼ぶ」
「……」
「三日後、返事を聞きに来る。これは進んでやらないと失敗する可能性が高いことなんだ」
扉をすり抜ける前にちら、と見たトウゴの表情は柔和なんかではなく、もっと、真剣なものだった。
NEXT